「君は材木、私たちは木の皮の部分が材料になる」
地元の木工が集まって企画した「木曽の木工家たち展」の会場で、
工房を開設したばかりの僕に声をかけて下さる方がいた。
もう、30年以上前の話になる・・・
専門校を出たばかり。
ひとりで仕事も取れずにいたペーペーの木工に、
「うちの工場の横に積み上げているキハダを使って、これから新築する自宅用に(炉を切った)座卓を作ってもらえませんか?」と男性は続けて話しかけてくれた。
願ってもないチャンス!
だけど、交渉事に慣れていない僕の返答はシドロモドロだったに違いない。
思い返せば、20代の若造(木工)の何が気に入って声をかけてくれたのかさえよくわからない。
(やる気だけは誰よりも満ち溢れて見えていたのかな・笑)
数日後、指定された場所に行って初めて、
そこが「日野百草丸」の工場だと知ることに(国道19号線沿いの看板はよく見かけていたけれど)。そして、その男性が日野製薬の社長であることも。
表面の外皮を剥くと見える、中の黄色い部分が「黄檗」と呼ばれる
漢方の原料になるとお聞きし、いただいた薬のサンプルを口にすると、
「良薬口に苦し」の語源の意味まで即時体感できた・笑
オウバクエキスは、健胃・整腸・腸内殺菌に効くという。
(製薬会社にとっての)残りものになる木の部分を家具にするという循環にも関心を抱きながら、その頃持っていた全てのスキルを総動員して家具の製作に当たった日々が懐かしい。
他に仕事のなかった僕の納期は順調で、遅れ気味の新築が完成する前に納品できたので、
まだ切り取られていない掘りごたつの部分の上に、さっさと納品して帰っちゃうあたりも、若さゆえの行動。今考えると、現場監督にちゃんとご挨拶して帰ったのかさえ不安に思えて、冷汗が出てきそうになる・・・
「来客の間」に納めた別の座卓の写真は、ポジが行方不明。
耳付きの板を2枚寄せ合わせた座卓中央のすき間の下に据えた花器に季節の花を活けることで、
座卓(天板)の中央部に浮かぶ花から暦を感じらとれる座卓に仕立てた。
木祖・藪原の森に佇む一軒家に訪ねてこられる来客との間を、今も野花が取りもってくれているだろうか?