水辺の心象風景

アーツアンドサイエンス(HIN)での取扱いを担当してくれている女性は、
幼い頃から絵を描くことが好きだったけれど、
学生時代に才能がないと思い詰め、
その世界から離れたという・・・

絵の世界に生きていない僕からできるアドバイスなんてなかったけれど、
「木工の才能がないから、僕は作り続けているのです」と応え、
「自らの美意識を変えていきたいだけなんです」と続けた。

何でも評価したがる日本の美術教育の下では、
彼女のように、好きでも諦めてしまう学生が増える一方に違いない。
画家になることだけが選択肢じゃないはずなのに・・・
帰り際に、
「いつかまた、絵筆を握る日を待ち望んでいます。」とだけ付け加えて
僕は京都を後にした。





昨年、アーツアンドサイエンス用に試作した
白漆の珈琲缶(豆200グラム用)。
アーツアンドサイエンスのカタログに載せるために送ったもの。

ちょうどその頃訪れた福山市の神勝禅寺。
目的は、ここのうどんだったけれど(笑)、
寺に続く路沿いの池に射し込む光が、
モネの池の心象風景のように見え、僕は息を飲んだ。

工芸の世界では使いたくないと思っていた「表現」という言葉を受けとめてでも、
その水辺に射す透き通った光の光景を
自分の作品に写し込んでみたいと思い、
立ち止まっていた。

その日以来、
「光のもつ色彩を白漆で表現してみたい」
と願いながら続けてきたテストピース。

ようやく、
思い描いていた色彩に近づいてきたので、

普段使っている漆刷毛でなく、
絵筆を握り、
あの光を求めてみた。








大きな桜の木の下で


満開の桜が散る様に、「生」と「死」の無常を重ね合わせてみたいと願う。

来週納品することになっている
山桜の仏壇は、

4点の仏具の納まる引き出し内のサイズから
全体の寸法を割り出したオーダーメイド
(巾390×奥行330×高さ500㍉)


両手を合わせながら扉を開けると、
引き出しに使っている木曽ひのきの香りが漂ってきます。
(引き出し上部に香りを通す引手口を設けています)

位牌を包み込むように曲面で仕上げた前扉。
裏板は、お掃除のおり外せるよう、
「いってこい」という工法ではめ込みます。



50代の頃、もしものために自分用の仏壇を作りました。

木工を職にしながらも、
他人の作った仏壇に入ると思うと
居心地や装飾の仕立てまで気にかかりそうなので(笑)、
ミニマムな仏壇に(巾315×奥行190×高さ450㍉)

無宗教ゆえ中に入れるものも思いつかない僕は、
木彫家の知人に依頼し、
仏具の代りに、
かつて暮した木曾山中の深い森で、
顔を合わせる度にジロリと僕を見る
(住人を認識してくれていた)

森の守り神を彫ってもらうことに。
                                         (木彫)クロヌマタカシ・作

6月と8月の二人展のご案内

4月に予定していた「牛窓クラフト散歩」の開催を断念したので、
次の作品を出展するのは、
6月の東京と8月の岡山になります。



6月10~15日の東京(玉川田園調布 / IN MY BASKET)では、
陶芸家・大村剛さんと
ガラス作家の・橋村大作さん、野美知さんをゲストに迎えます。







8月7~15日の地元岡山(岡山市 /アンクル岩根ギャラリー)での二人展は、
岡山の彫刻家・榎本勝彦さんとの木工・二人展




共に、真っ直ぐな姿勢のお二人なので、
勉強させてもらうつもりで、
自分らしく肩を並べさせてもらおうと思っています。

「銅」はあるけれど、「金」はない

旅先で見つけた古道具(木彫の装飾品)を工房に持ち帰り、
ぼ~~っと眺めながら

モノに刻まれる「装飾」や色の持つ意味について
考え直しています。


キラキラ光る金色は苦手だけれど、
時間が経てば、
その色合いは

何とも言えないテイストに。





                  (フランス1920年頃の建築構造物)
これも何年か前の旅先で見つけたお土産(変なお土産~~~)
金色は、経年変化(経年劣化)して渋い色合いに。



家で使っているケトルは、英国シンプレックス製。
こちらは、銅の製品

あまりの出来の良さに
他のケトルが使えなくなってしまったという逸品。
(かさばるケトルを旅先からバッグに詰め込んで持ち帰った・・・)
マトファーの銅鍋同様、
使う程に銅の色が変化し、愛着が深まります。

メダルの最高峰の色でもある「金」は高価なので、
僕の周りには見当たりません・・・が、
最近仕事で使っている眼鏡。
もちろん金の眼鏡なんて身につけられないけれど、
一部フェイクの「金メッキ」

「メイクアップグラス」と呼ばれる眼鏡を
「跳ね上げ式メガネ」の代わりに仕事で使っています!
「跳ね上げ」ならぬ「跳ね下げ式」メガネ・笑
元々は、近視の女性が
目の周りをメイクアップする時に用いるために作られた
専用メガネなのだそうです。









祝い酒

木工教室に通われている内のおひとりが、
「木工を志したい」という願望を持たれていることを知り、
県北の街「津山」の技術専門校を薦めました。

中学校卒業レベル?の一般教養の試験に備えて猛勉強されたようで、
狭き門を合格されたとの知らせに一安心。

コロナ禍ゆえ、

お店には誘いづらかったので、
工房でポトフを囲み、
静かに祝盃をあげました。


木工なんて厳しい世界に飛び込もうとする人の気が知れませんが(笑)、
同じ道を先に歩んできた手前、
惜しみなく知恵を貸しながら、
彼の成長ぶりを見守りたいと思っています。

30数年前、
木曽の専門校の教官から
「10年で半人前、20年で一人前になる職人の世界」のことを教わり、
途方にくれた思い出が甦りますが、
その言葉どおり、
手に職をつけるには時間がかかります。
ただ、
手さえ鍛えていけば、
誰も真似のできない技術を習得することもできます。
オートメーション化が進めば進むほど、
宮大工が重宝されるように、
先人から伝わる伝統工法を習得しておけば、
いつの日か必ず花は咲きます。

半端な心持ちでは「独立」しても、
知らぬ間に社会の渦にのみ込まれて
自らの個性まで見失ってしまいます。

たとえ社会から見放されても、
只では立ち上がるな。
君が一筋であれば、
どこかで必ず見てくれてる人はいる!

僕からのエールです。

プロフィール

HN:
山本美文アトリエ
性別:
非公開

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