「きれいに彫ろう」と意図した瞬間、いやらしく見え始めるノミの痕(あと)。
「これもできそう、あれもできそう」と欲張った時から色あせていく漆の表情。
製作に向かう時は、
只只 夢中になれる時間の中に身をゆだねてみる。
「何も考えないこと」さえ忘れてしまうほど夢中になれる時間が、
ノミにリズムを与え、無作為を刻んでくれる筈(と信じて)。
モノづくりの難しさは、
自分の中にある心の問題に他ならないから、
時間をかけて心を磨く以外に手立てがないことも、
木工が教えてくれた。
「木を使ってもの(うつわ)を作る」と言いながら、
実は木に育てられてきた自分があるのです。