清掃から学ぶこと

「かたづけができないようでは、事故(怪我)も避けられない」
と 清掃の大切さをすり込まれたのは、
専門校時代の教官からでした。

刃物を扱う木工は、常に怪我(けが)と背中合わせ。
大型の木工機械に至っては、
一瞬で指を切断するような事故だって起こりうる。
幸い僕は、木工機械による大怪我を起こしていませんが、
肝を冷やすような出来事は
これまでにも何度かありました。

そんな日は、
工房のかたづけと清掃で
かつての教官の言葉を思い出すことに。







静謐な暮らしの在り方を示した
シェーカーの人々の暮らしに学んだことは、
簡素なデザインや生活スタイルだけではなく、
日々の暮らしの中に
人間らしい室礼(しつらい)を
落とし込んでいたという点にもあります。

日々の清掃を重んじたシェーカー教徒は、
部屋の壁に箒(ほうき)を吊るし、
常にそうじすることを忘れないよう心掛けていました。
清掃を促すために
壁の箒を見える場所にかけていたのでしょうが、
僕には、箒そのものが
そうじの大切さを示唆するオブジェのように見えちゃうのです。

洋書「SHAKER STYLE」より



安全の保持という観点から、
僕の工房でも
シェーカーの室礼に学び、
入口脇に箒を吊るすことに。




朝の清掃に始まり、かたづけで終わる工房の一日。
そうじの仕方は、ひとそれぞれ。

そうじに対する姿勢には、
人それぞれの性質まで見え隠れしちゃう(笑)。
毎日決められたことを時間内にきっちりこなすひともいれば、
曜日によって場所を変え、
そうじの仕方も変えるひともいる。
ただ、
工房から独立して木工家を志す弟子には、
単に安全という観点からだけではなく、
そうじひとつとっても、
工夫を持って想像力を培ってほしいと願うのです。











脇役に徹する生活具

ほぼ日の取材時、
キッチンのない木工房での食事会を
演出してくれた伊藤まさこさん。
白漆の器に盛り付けるための「白」を
主体にした料理が印象的でした。
 
 ※7月30日にマガジンハウスから「白いもの」
  シリーズの本が発売されるそうです。
  
続いて
5月のフィールド・オブ・クラフト倉敷での
10周年記念企画
「山本美文の器とオカズデザインの料理会」

6月には、
岡山市の料理研究家の女性が企画してくれた「木の器を愉しんで」
という予約制の食事会。

食事と器を絡(から)めた企画が続きました。
一昨日は、
ミシュラン3つ☆のスペイン料理店から
スパニッシュの「おじや」を
鍋から掬うためのカトラリーの依頼が。
お客様の前で お店の方が
鍋からおじやを掬い出すためのカトラリーだそうです。
深い鍋の底からおじやを掬い出すための
大きめのスプーン(レードル)が、
日本では なかなか探せないとのこと。

これまで使ってきていたのがこちらのスプーン

日本でいう「おたま」の役目をするスプーンなのでしょう。
柄と先の角度が特殊で、あまり見かけない形です。
以前から「おたま」には関心があったので、
これを機に、
オリジナルのレードル(おたま兼スプーン)を
試作してみようかと思います。

なんでも このスペイン料理のお店、
神戸の人気店で、
予約3か月待ちなのだとか。
レードルを作ったら、
使われてるところを一度は見ておかないと
お話にならないので、
予約だけでもしておこうかな!

サラダサーバー 思案中

これまでも 「器使いのお試し会」と名づけた(こじつけた?)食事会を
工房で開いてきましたが、
大抵は大皿料理がメインの食事会になります。
そんな料理会で大活躍するのが、
大皿から小皿に取り分けるためのサラダサーバー。

これまでも何度かサラダサーバーを試作して使ってきましたが、
フォークの形がなかなか定まらずにいました。
フォークとしての用途にとらわれ過ぎて、
「大きなフォーク」というデザインの不格好さが
 受け入れられなかったのかもしれません。
そこで、フォークという観念を捨てて
サラダを挟み込む道具として考えてみたら、
(あら 不思議)
すんなりサラダサーバー用のフォークの図面が書けました。



早速、型を取って試作してみました。




これまでの食事会でも、
知らぬ間にスプーンが大皿の中に入りこんで、
柄の部分にまで料理が付いて
使えなくなったことが度々あったので。
柄のデザインを工夫して
サラダサーバーがお皿の中に入ってこないように仕立てています。

そのデザインが功を奏して?

収納方法だって、いろいろ。
どこにでも簡単に引掛けられます。


ホオノキで試作しましたが、
次に何の木を使って仕上げるかは、思案中です。


足踏みのミシン鋸がやってきた!

児島のウームというブロカント・ショップの倉庫で
壊れた足踏みミシン鋸を見かけた時、
「次にどこかで使えるものを見かけたら、確保しておいて」
 とだけ伝えておきました。

その願いが廻りまわって、
店主の知人から一本の電話が入ってきました。
「とあるリサイクルショップで、足踏みミシンを見つけた」
という嬉しい内容。
さっそく出向いて迷わず購入!

今でも、
電動の糸鋸を「ミシン鋸」と呼ぶのは、
足踏みミシン鋸を使っていた頃からの名残りなのでしょう。
手に入れたのは、「デッドストックの赤い足踏みミシン鋸」



足踏みに連動して、
カタカタカタと上下に動く糸鋸の刃で
木を挽いていく楽しさは、格別です!
上達するにつれ、
大小の曲線に合わせて足踏みのスピードを変えたり、
目と手と足の感覚を駆使することで、
身体全身を使った特有のリズムが刻まれます。

確かに現在の電動糸鋸は便利だけれど、
一定のリズムで長時間木を挽いていると、
案外疲れちゃう。
それに対して、
身体を使って習得できるような技(足踏み)は、
常にリズムが変化するので、
踏み続けても、
充実感が伴い
疲れさえ忘れてしまうほど。

それは、車の運転とも似かよっていて、
アクセルとハンドルさえ操作していれば、
どこにでも行ける夢のような車に乗ったとしても、
ただハンドルを握っているだけだと
退屈だし、楽しさを感じられなくなっちゃう。
運転を楽しむのなら、
アクセルとブレーキとギアを駆使して
心地よいエンジン音に包まれ、
走ることの悦びを全身で感じたい。

便利さに寄り過ぎてしまうと、
五感から得られる感動(ワクワクする気持ち)
まで失ってしまいかねないから気をつけなくっちゃ!






作品の相性

二人展の初日に
(千葉・柏市)在廊してきました。



ギャラリー備え付けの木のテーブルは、
茨城在住の羽生野亜さんの作品。
羽生さんの作り出す木の表情は、
誰にも真似できないテクスチェア(同じ木工でさえ、掴めないほど)。
白漆の器との相性があまりにマッチしていたので、
思わずシャッターを押してしまいました。

そういえば、
以前 シェーカースタイル展を企画してもらった
東京の而今禾(じこんか)にも羽生さんの卓が置かれてました。
シェーカー展を企画してくれるギャラリストが
共通して作品を選んでいるという点では、
かたちは違えど、
ものづくりの姿勢に共通点があって、
相性が良いのかもしれませんね。






今回の企画展(二人展)で
スリップウェアを出品してくださっている
伊藤丈浩さんとも初めてお話しました。
スリップウェアは、17~18世紀の
イギリスで考えられた技法だそうです。



日本では、柳宗悦の唱える民藝運動が広まる中、
イギリス人の陶工・バーナードリーチから伝えられた
と聞くスリップウェア。

かつて、柏市・我孫子市・白井市・印西市にまたがる
利根川水系の湖沼「手賀沼」周辺は
多くの文人が居住していた場所。
志賀直哉は、京都に移るまでの7年半の間、
手賀沼を見下ろす高台で
「和解」「暗夜行路」「城の崎にて」などを執筆。

志賀直哉のすすめで移り住んだ
白樺派創設者の武者小路実篤も
水辺と森に囲まれた豊かな自然を愛し、
「北の鎌倉」と呼んでいたのだとか。
民藝の柳宗悦やバーナードリーチも一時
我孫子に暮らしていたこともあるそうなので、
スリップウェアとの縁も感じられる場所なんですね。

「シェーカーの仕事とスリップウェア」展は、7月20日まで。
(場所)ぅっゎ萬器              http://www.utuwa-banki.com










プロフィール

HN:
山本美文アトリエ
性別:
非公開

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